|
|
色・音・香3 色・音・香の物理学 |
クラス
|
全学科 |
履修年次 |
1 〜 4年 |
授業形態 |
講義 |
単位数 |
2.0 |
学期 |
後期 |
曜日 |
月曜 |
時限 |
3.0〜4.0 |
教室 |
共通講義棟3号館 第2講義室 |
読替 |
現代物理学
(基礎講義科目) |
H偶数年度開講 |
|
|
色・音・香 3 色・音・香の物理学:菅本 晶夫 [理学部物理学科] |
|
「授業の現状を報告せよ」との要請があったので、自分が如何に悪戦苦闘しながら授業をしているかの裏話をする。授業を聞く学生さんも大変だが、授業を準備する教員も大変なのである。
授業が月曜日にあるので、前の週の土・日になると焦り始める。もっと早く準備しておけば良いのだがそれができない。10月6日の第1回目は大変であった。前々日の土曜日にAmadeus Proという音の波形や周波数分布を表示するソフトをウェブからダウンロードした。このソフトは「音律と音階の科学」の著者である小方厚さん(加速器の専門家で、筑波の研究所にいたときの同僚)から紹介してもらったものである。やっと授業の2日前になって重い腰が上がった。これでPrint Musicを使って自分の練習用に作成していた長調と短調の音階と和音進行を走らせると、見事に和音の波形が得られた。うれしくなって、楽器をピアノやバイオリンの他に三味線や尺八にして遊ぶことができたのは、ようやく日曜日の夕刻であった。PCの前で家族に自慢しながらAmadeus Proを走らせていると、偶然波形が変わった。PCのマイクが自分の声を拾っていたのである。口笛を吹くと奇麗な正弦波が出た。口笛は単一の周波数で出来た音波を発生させる装置であると知った。この段階で準備をする時間がなくなったので、Amadeus Proの実演に加えて自分のよく知っている波とは何かを物理的に説明することにして、第1回目の授業を無事終えることができた。
90分の新しい授業を、しかも自分が良く分かっていない課題について講義するのには、大変な労力を要するのである。色・音・香を、入り口にある色・音・香という自然現象を理解することから始めて、これを感覚器官によってどのように感知し、神経回路を介して脳で如何に認識するかに至るまでを、講義しようと計画したから大変である。生理学の本を2冊大学図書館から借りて、自分でも3冊本を買った。LAで必要な本を購入して下さいと大学から言われてはいたが、実際に本が必要となるのは授業の前日か前々日だから、結局自腹を切るはめになる。その後は毎週末頭を抱え込んで、生理学の本と格闘している。お蔭で生理学の本が読めるようになった。外的刺激が生体膜のどのようなタンパク質にどのように作用して、生体膜のどのイオンチャンネルを開いて電気信号を発生させるかが、少し分かってきたのである。前回(1月8日)講義をした視覚に関する大脳皮質のコラム構造には驚いた。どのようにしてそのような働きを解明したのだろうか。大脳を色素その他の方法を用いて染め分けることによって刺激に対する活動部位を特定するらしいが、自分でもやって見たくなった。
小方さんの本に触発されて150年前のヘルムホルツの本「On the Sensations of Tone」を買ってしまったが、この本には参った。内耳の構造から和音進行までを物理的に説明しようとしていたからである。退職後に私は、美学としての音楽を物理学として理解しようと密かに考えていたので、「150年遅かった」と落胆した。そのときアインシュタインが「ヘルムホルツほど自由な発想を持った科学者はいない」と絶賛していたことを思い出して、それほどの人なら150年負けても仕方がないと、気を取り戻した。落胆から立ち直ると新しい目標ができた。退職後に医学部に再入学して現代生理学をマスターし、最新の物理学と数学と心理学を駆使して、ヘルムホルツの本を現代風に書き直すというものである。
3ヶ月が経過して、苦痛であったLAの授業が最近とても楽しくなった。 |
|
報告:菅本晶夫教授 写真:教育企画チーム 野口香織 |
|